日本ITストラテジスト協会オープンフォーラム2008 [2008年12月7日]
日本システムアナリスト協会(JSAG)2008年関東支部オープンフォーラム開催報告
日時 | 平成20年12月7日(日) 13時 ~ 17時15分 |
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場所 | 虎ノ門パストラルホテル 6階 ロゼの間 |
参加者 | 90名(会員58名・一般32名) | アジェンダ |
メインテーマ「今、プロフェッショナル・コミュニティを考える」
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フォーラム要約
会長挨拶 2007年7月の産業構造審議会の報告 「高度IT人材の育成を目指して」以後、 IT人材類型の整理や情報処理技術者試験 の見直し等の施策が進められています。 特に人材類型の整理においては、ITSS・ UISS・ETSSの各スキル標準の 共通フレームワーク化とともに、 レベル5以上の高レベル者認定は 専門家によるコミュニティが行なうべき との方向付けがなされつつあります。 一方、この機能の受け皿となる プロフェッショナル・コミュニティの整備が 今後の課題となっていくことでしょう。 今オープンフォーラムでは、プロフェッショナル・ コミュニティに対する産・官・学の取組みを 紹介させていただくとともに、JSAGとしての 対応の方向発信を行ないます。 基調講演1(情報処理推進機構人材育成本部本部長 松田 晃一様) ご講演は次のような骨子のお話をいただき、 特に 4. に力点を置きお話をいただきました。 1. IT人材を巡る最近の状況 2. IPAにおけるIT人材育成施策の概要 3. 産学連携によるIT人材育成 4. プロフェッショナル・コミュニティへの期待 また、プロフェッショナル・コミュニティについては、 「官」主導で新たに立ち上げるよりも民間の企業内の コミュニティや企業を離れたコミュニティの活動を 尊重されたいとのことでした。 そしてプロフェッショナル・コミュニティへ期待する 項目として、次のようなことを挙げていただきました。 1. プロ同士の切磋琢磨の場 2. 後進の育成(「学」への協力・教員派遣等も含む) 3. ハイレベル認定への協力 (アセッサー、認定基準の作成・見直し) JSAG講演・成果報告
2009年度に日本システムアナリスト協会の見直しを行い、2010年度より新試験のITストラテジスト合格者を加えた新体制を発足する。これに伴い会の名称も刷新することを検討をしています。
また、システムアナリストのスキル体系(SABOK)の編纂プロジェクトの内容および進捗報告を行いました。
基調講演2(情報処理学会 情報処理教育委員会委員長 早稲田大学教授 筧 捷彦様)
ご講演は次のような骨子のお話をいただきました。
- 産学連携の流れの中で、学会として情報処理の専門教育の国際相互承認に向け、カリキュラム標準J07を確立し、JABEE(日本技術者教育認定制度)を発足させてきている。
- ITプロフェッショナルの国際認定をこの延長線上で構築中である。
すでにオーストラリアは国内の認定制度を IFIP:国際相互認証へ登録済みであり、イギリスも申請中である。
日本はまず国内の資格認定を制度として確立する必要がある。 - この中で重要な役割を占めるのがプロフェッショナル・コミュニティである。
既存のコミュニティがプロフェッショナル・コミュニティとして認められるためには、次の3点に取り組む必要がある。- プロフェッションの確立
- プロフェッショナルの資格確立
- 知識標準・スキル標準の確立
こうした認識の中、JSAGのSABOKの取組みは 3. に当たるもので、ぜひ早期完成と外部への発信を行なって頂きたい。
パネルディスカッション モデレータの平田様より次のような問いかけをされ、 各パネラーの方から回答をいただきながら、 活発なディスカッションが行われました。 1. それぞれが所属するコミュニティの紹介 2. 「プロフェッショナル・コミュニティ」を どうとらえているか? 3. なぜコミュニティを作ろうとしたのか? 4. メンバー集めの工夫は? 5. コミュニティ活動を継続していくための工夫は? 6. プロはノウハウを共有したがらないのではないか? 7. 社内の人事制度との関係について 8. コミュニティ活動による成果は? 9. 社外との連携は?
《日本ユニシス 宮脇様》
【ご略歴】
- 共通利用技術部に所属、金融関連のSE経験後社内向けに開発技法の評価・適用推進を担当。
- 2年前より人材育成部門で技術者育成戦略を担当。
- 2007年よりIPA ITAプロフェッショナルコミュニティ委員。
【ご発言要旨】
- それぞれが所属するコミュニティの紹介
コミュニティは、2003年に「オンライン開発者コミュニティ」として発足した。
自分の役割は世話役的位置づけである。
参加者の年齢層は特に問わないが30~40歳代中心となっており、主にAPスペシャリスト・APアーキテクトの職種の人で構成されている。
活動は四半期に一回程度の会合(不定期)。技術テーマを設定した議論が主だが、他社との交流会・講演等も実施している。 - 「プロフェッショナル・コミュニティ」をどうとらえているか?
技術者にとって基本的にはコミュニティが必要と考えている。
特にオープン化以降、プロジェクトが企業内で完結することは少なくまず手を繋ぎ、助け合うことが重要となってきている。 - なぜコミュニティを作ろうとしたのか?
若手とベテランの技術ギャップを感じたことがコミュニティ立ち上げのきっかけである。
汎用機の技術でオープンとも共通することが数多くあるのに両世代で認識されていない。
こうした問題を解消する為に、中間の世代として間に入ってコミュニティを設立した。 - メンバー集めの工夫は?
メンバーは世話人が社内研修の講師でもあるため個別に指名し、芋づる式に集まった。
- プロはノウハウを共有したがらないのではないか?
ノウハウを出させる工夫は、お互いに議論をさせること。
この中で相手を認め合うと自然に情報交換がされるようになる。 - 社内の人事制度との関係について
コミュニティは社内の人事制度とはつなげないつもりである。
メンバーにも「報酬」より認められることの「名誉」を意識させるようにしている。 - コミュニティ活動による成果は?
成果は明確化できていないが、とんがった技術者の次世代が育ってきた感触あり。
- 社外との連携は?
外部との交流会を行なったがよかったと感じている。
職種や経験などのレンジが異なり話は合わなかったが、違いを感じられたこと自体がよい経験と捕らえている。
《三菱総研DCS 久慈様》
【ご略歴】
- 外資系コンピュータメーカにて大手銀行の二次オン・三次オン等大規模システムのSEリーダを経験。
- 現在は事業推進企画部アーキテクトラインの部長格。
- 社内のITアーキテクト認定審査委員、ITアーキテクト向け研修講師等も担当。
【ご発言要旨】
- それぞれが所属するコミュニティの紹介
ITスキル標準に準拠した新人事制度を2006年4月より開始した。
ITアーキテクトの育成などを目的に、現在のITアーキテクト組織を2007年10月組成した。
コミュニティは2008年5月に発足し、現在11名で、ITアーキテクト以外や認定レベルが低くても本人希望で加入可能となっている。
30歳代が主だが、40~50歳代まで幅広い年齢構成。月1回の定期会合、地方からはTV会議での参加も。 - 「プロフェッショナル・コミュニティ」をどうとらえているか?
技術者としての成長は一人ではできないもの。後進の育成からスタートしても、指導側にも気づきがある。また、形から入っても1年位で質の面が変わってくる。メンタリングを通じ、メンバーの発想・振る舞いが変わる。「行動特性」に注目している。
- なぜコミュニティを作ろうとしたのか?
「若手が育たない」との相談があったが、元々他社のことは良く見えるもの。しかし、他社の方を見ていると社内コミュニティでの発信やノウハウ活用に差があると感じた。
ITSS導入に伴いスキル評価を始めたが、スキル高でもハイレベルの技術者に脱皮できない人材がいた。彼らに勉強の仕方のきっかけを与えたかった。 - メンバー集めの工夫は?
メンバーは、元々組織(アーキテクトライン)で集めたが、ITアーキテクトの内容を知りたい者や、個別プロジェクトでこれはという人材を一本釣りし加えている。
- コミュニティ活動を継続していくための工夫は?
継続のコツはとにかく月1回必ず集まること。対外のコミュニティの紹介や担当PJでの苦労話等、テーマには事欠かない。
また、技術/人事の連携があるので、参加のビジビリティを上げるよう働きかけている。 - プロはノウハウを共有したがらないのではないか?
知財的なものを出したがらない傾向はあるが、仲間意識が形成されているのでコミュニティ
の場は比較的オープンである。
「顔を知っている」ことは重要。知り合えたことから、文化の違いの刺激を受け相乗効果が出てくる。 - 社内の人事制度との関係について
コミュニティでは、最初のリーダークラスの色が出すぎると良くない。優秀だが色が合わず排除されることのないよう留意している。
- コミュニティ活動による成果は?
コミュニティの成果は、メンバーから目立って活躍する者も出ており手応えを感じている。
メンバーから一般社員へITSS認定の申請書の書き方やメンタリングを行なっており、コミュニティ外からの評価が高まった。 - 社外との連携は?
対外活動は個人の活動を通じたやりとりに留まり、現在はコミュニティtoコミュニティの連携は行なっていない。
《オージス総研 山口様》
【ご略歴】
- アドバンストモデリングソリューション部に所属。
- SE、アーキテクト、開発プロセスのコンサルタントを経て、現在は技術支援・コンサルタント部門のマネジメントを担当。
【ご発言要旨】
- それぞれが所属するコミュニティの紹介
2005年4月に、QMS部門主導でPMコミュニティが発足。2007年10月に、高度IT人材コミュニティ制度をスタートし、2008年4月までに4コミュニティ(PM・コンサルタント・アーキテクト・インフラ/運用)活動が開始された。
2008年10月、PM職種で社内技術者認定制度の試行を開始した。
人事部ITスキルセンターが事務局となり、メンバーは事務局提示の条件に沿って所属長が指名。メンバーの年齢層は30~40歳が主。コミュニティの下にワーキンググループがあり、所属長が了解すればコミュニティメンバー以外も参加は可能となっている。
コミュニティは月1回程度の定期的な会合+各WGの不定期に会合を持っている。
年に数回、公式な中間報告と成果報告会実施し、成果は社内技術ポータルへ展示している。 - 「プロフェッショナル・コミュニティ」をどうとらえているか?
「プロ」は座学では得られない領域を持った人、自分なりの方法論を持ち他者へ提供できる人。
コミュニティはプロにとって自らの成長のフィードバック・学びを得られる場と捉えている。 - メンバー集めの工夫は?
会社の施策以前にもコミュニティは実質的に存在していた。お墨付きによりラインのマネージメントにも認知される状態を作れた。
- コミュニティ活動を継続していくための工夫は?
やりたいテーマにやりたい人が集まる形を取ることが継続のコツ。
「事例研究」などはうまくいく感触であった。
昨年は、ディスカッションでテーマ設定しようとしたがなかなか決まらなかった。 - プロはノウハウを共有したがらないのではないか?
ノウハウに関する防御意識と共に、コンプライアンスの意識も共有を阻害する要因と考えられる。
技術面は、比較的共有しやすい分野だが、オンラインでは公開できずオフラインの場のみで話せるものもある。 - 社内の人事制度との関係について
社内の人事制度との連携は、これから進めようとしているところである。
認定制度のインセンティブがコミュニティ活動に効くことも期待している。 - 社外との連携は?
社外との連携では、東京では多くのコミュニティがありメンバーも結構参加している。
これらから持ち帰った内容の共有も貴重な財産である。
また、社内コミュニティ活動が彼らの対外活動の後押しになっている。
《JSAG理事 阿部》
【略歴】
- SIerからユーザ企業へ、再びSIerを経験。
- ユーザ企業にてシステム企画・構築などを幅広く経験。
- 2007年度まではJSAG関東支部長、現在はJSAG全体の総務担当理事。
【発言要旨】
- それぞれが所属するコミュニティの紹介
JSAGの活動について、紹介は省略。
- 「プロフェッショナル・コミュニティ」をどうとらえているか?
小規模のユーザ企業では、一定以上のレベルの方の自己革新や情報発信の機会が限られる傾向があり、社外のコミュニティへの参加は大いに有意義である。
- メンバー集めの工夫は?
JSAGの場合は口コミが中心で加入されてくる。
またオープンフォーラム等のイベントでの露出もきっかけとなる。 - コミュニティ活動を継続していくための工夫は?
イベントを企画・推進することで高まる参画意識は継続の大きなインセンティブとなっている。
また、フェースtoフェースのオフラインの集まりや懇親会も重要な要素であり、このような場で接点を増やしていくことや、気楽に参加できる雰囲気も寄与している。 - プロはノウハウを共有したがらないのではないか?
お互いに利害関係がない関係であることが大きい。あまり隠し立てする雰囲気ではない。
- 社外との連携は?
JSAG以外にも複数の団体に加入しているメンバーが多く、その重複メンバーを通じ団体間の交流は比較的盛んである。
【Q&A】
Q1.情報発信には個人差があると思うが、発信が苦手な人への配慮は?
A
- 声の大きな人のために隠れている人のために、WGでメンバーを分ける工夫を行なっている。
構成等で、運営側の気配りもある程度必要と認識している。 - コミュニティ活動の中で、短時間でも個々人の取組み事例の紹介をさせるようにしている。
これにより発信内容のハードルが下がる。 - イベントでのライトニングトーク(短時間のスピーチ)は有効である。
- 権威者が出席すると話し難くなるので、あえて出席頂かないようにする場合もある。
(運営側での工夫は必要)
Q2.社内の技術者認定制度で、外部試験の結果や資格取得をどう取り扱っているか?
また、今後 IT技術者の公的な資格認定制度が出てきたら使っていくか?
A
- 情報処理技術者試験の取得は参考レベルで利用している。
公的認定は、具体化してから利用を考える。 - 外部試験の結果や資格取得参考にしている。
プラスαの要素を自社のニーズに合わせ作成しているが、コミュニティ活動とは別である。 - 社内の技術者認定はITSSベースで実施している。
この認定は基本的な知識を外部のテスト中心で評価し、経験に応じた実力を面接にて評価を行っている。
この評価が芳しくない場合には、情報処理技術者試験を評価を上げる材料として使えるようにしている。
公的な認定制度も、社内認定制度のベースとして使えると思う。
Q3.コミュニティ活動の労務面での扱いは?
A
- コミュニティは基本的には時間内で実施している。
業務時間の中で自分で時間を作ってもらう形態なので、時間外は実施しにくい。 - 時間外に実施しているが、元々参加者都合を優先して設定している。
その時間帯でないと集まれない、という事情もあるが、残業の扱い等での問題は特に起きていない。 - 時間内に行なうのが基本で、会社の仕事として位置づけているが、17時以降の認識は参加者により異なるかもしれない。
元々勤務時間帯の違いがあるのでそれぞれ時間内・時間外が分かれることもある。